大判例

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東京高等裁判所 昭和33年(う)596号 判決

被告人 堀うめ

〔抄 録〕

ところで問題となつている公衆浴場法第八条第一号にいわゆる同法第二条第一項の規定に違反した罪とは、所轄都道府県知事の許可を受けないで業として公衆浴場(温湯、潮湯または温泉その他を使用して公衆を入浴させる施設)を経営した行為をいい、それが実際上本業として行われるかどうかはもとより罪の成否に係りはないというべきであるが、たとえば旅館業を営む者がその宿泊客(いわゆる休憩客を含む―旅館業法によれば旅館業とは宿泊料を受けて人を宿泊させる営業であり、宿泊とは寝具を使用して宿泊施設一般を利用するをいうに過ぎないから、同法による宿泊客は必ずしも夜を超えて泊ることを必要とせず、単に一時の休憩にとどまる場合でも一定の時間前記宿泊施設一般を利用し得る約束の下にこれに相当する料金を支払う者であるかぎり、また右にいわゆる宿泊客にほかならない。この場合現実にどの範囲どの程度で右施設を利用するかは客の随意であることもちろんである。―)に旅館内に通常付置してある浴場設備を利用させるように、業者がたとい公衆を客の対象とするときでも、その有する入浴施設を直接入浴のみを目的とする公衆の利用に供したのではなく単にその本来の業務上客となつた者に付随のサービスとして入浴の便宜を提供するにとどまる場合(温泉旅館のように、その入浴施設の利用が公衆を旅館に誘致する有力な要素となつており、その旅館の客となる公衆の中にもつぱら入浴のみを本来の望みとする者がいたとしても、その者がその旅館の入浴施設を利用し得るためには、当然右旅館の宿泊客とならなければ目的を達することができないような仕組になつている場合は、もちろんここにいわゆる直接入浴のみを目的とする公衆の利用に供したというのにあたらず、この場合の入浴施設の利用は、形態上はあくまでその旅館営業者の宿泊客に対する付随のサービスに過ぎないとみるのである。また反面、直接入浴のみを目的とする公衆の利用に供したという場合でも、たとえば巷間見られる「……トルコ風呂」、「……温泉―旅館業を営まないもの」など特殊公衆浴場といわれ一般公衆浴場より高い料金を認可されているもの―公衆浴場入浴料金の統制額の指定等に関する厚生省令第二条に基づく都道府県知事の価格指定例参照―にその例をみるように、入浴客に若干休憩、娯楽設備の利用等のサービスが随伴することを否定するものではない。)は、右罪にあたらないと解すべきことはいうまでもない。(その理由については、後記論旨第二、第三点に対する説明参照)しかし、原判決の示した罪となるべき事実によれば、「被告人は法定の許可を受けないで昭和二十八年十二月頃から昭和三十二年六月十四日頃までの間船橋市海神町北一丁目六百二十番地の被告人経営の旅館白梅の店舗施設の浴槽を使用し温湯を用いて公衆を入浴させ以つて業として公衆浴場を経営したものである」というのであつて、このように旅館経営者の場合、単に「店舗施設の浴槽を使用し……公衆を入浴させ……」というのみでは、強いて言えば誤解を招く余地が全くないではないが、かような具体的場合における用語の使い方の一般の例からいつても、また原判決が右事実認定に供した証拠の内容からみても、原判示はまさに、被告人が法定の許可なく反覆継続の意思の下にその経営する旅館の入浴施設を直接入浴のみを目的とする一般不特定多数人の利用に供し、もつて前記公衆浴場法違反の罪を犯したという具体的事実を示したものとみるべきで、さきに本件の罪にあたらないとして例示したような場合はこれを含まない趣意であると認めるのが相当である。したがつて原判示の罪となるべき事実を不確定であるとする論旨は理由がない。(論旨は、その論拠として原判決が席料百円を徴して家族風呂に入浴させたことをも罪となるべき事実としているとしてこれをとりあげ、またこのことを違法と主張するのでであるが、原判決の示した罪となるべき事実中どこにもかような趣旨をうかがうことはできない。かえつて、記録によれば、原審において取り調べた証人中被告人方の入浴客となつた旨を述べているもので原判決がその認定事実の証拠として摘示した分はすべて、毎回大人一人分として現金で二十円を支払い、または百円で七回ないし八回分の回数券を買つて使用し入浴した事実に関係を有するもののみであつて、一回の料金百円を支払つて家族風呂に入浴したことだけを述べている証人戸田ハツノの供述はことさらにこれを除外している事実に徴すれば、原判決は、いわゆる席料百円を徴し家族風呂に入浴させたとの点をむしろ本件の罪となるべき事実から外したものと推測することができる。なお被告人は前記料金二十円ないし回数券の使用による入浴の事実に対し、右料金は席料としてこれを貰つたのであると原審公判廷で弁解しているけれども、かような場合名義のいかんにかかわらずむしろ事がらの実質が問題とされるべきである。しかして原判決挙示の証拠によれば、被告人は、その経営する旅館への出入口と別個に旅館付設浴場に直接通ずる出入口を設け浴客専用の下駄箱、入浴料金受領の帳場を備え毎日午後二時ごろから午後十時ごろまでこれを宿泊客以外に開放し、付近の一般住民をしてあたかも普通公衆浴場におもむくように入浴のみを目的として直接同浴場にいたり用をすませてそのまま帰るにまかせた事実が認められるから、前に説明したとおり、被告人はその経営する旅館の入浴施設を直接入浴のみを目的とする一般不特定多数人の利用に供したものといわなければならないのである。)

(加納 足立 山岸)

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